アドリブ

芝居に関して言えば、基本的にアドリブは好きではない。アドリブに見える芝居が好きだ。どう違うかというとアドリブは芝居の筋から逸脱していく、突発的に面白いことを言って客受けすると次はもっと大きな笑いが欲しくなる。益々テーマから離れて行く。アドリブの天才といわれる森繁さんだがほとんどアドリブは言わない。稽古の間にしっかり練って舞台に乗せる。あの人が言葉を発すると全部アドリブに聞こえるんだ。でも舞台上で恐ろしい鍛え方をすることがある。こちらが台詞を言い終えると突然「あ〜ところであんたの親父さん名前何ちゅうたな?」「えっ」
「親父の名前じゃよ」「!!はははい、せせせせいち」「ああせいちさん、そうか生まれはどこ?」「!!えっあの、かかかかごしま、もとい、薩摩です」かと思うと森繁さん、自分の長台詞の途中でぱっと振り向いて小声で「ここまで」来たか!その先を言わなくちゃならない。つまり森繁さんの分も覚えなきゃならない。自分の役を親の名前から兄弟の名前出身地まで作った上に人の台詞まで、「ところであなたのお父上のお名前は?」一度聞いてみたかったが果たせなかった。”しっかり役を作れ”ということか。関口宏、竹脇無我の三人で年に二回ほど親父を囲んで食事会をするのが大きな楽しみである。ちょっと耳が遠いが内臓はすこぶる強い、時折見せるあの鋭い眼光も健在なり。”涼しくなったらね”が合い言葉。次は東京會舘のタルタルステーキかな。
by teruhiko_saigo | 2005-08-10 17:18 | 舞台のこと

西郷輝彦本人による徒然日記


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