山田五十鈴さん

e0024944_1775651.jpg

楽屋の入り口に暖簾がかけられている。それぞれの贔屓筋や、先輩から贈られた物で送り主の名前が記されている。うちの暖簾は”五十鈴”より、言わずと知れた山田五十鈴さんである。
「さつき館の鬼火」で初めて日比谷の舞台に立った。”蝉丸”という名の鼓打ちの役だった。もちろん鼓なんて触れたこともなく、とにかく音が出ない。「すかっすかっ」「べちゃっべちゃっ」悩んでいたら山田さん「私の稽古鼓上げるから使って下さい」「一緒に寝るぐらい愛して可愛がって上げたらきっといい音出ますよ」それから家にいても楽屋にいても肌身離さず愛してやった。可愛がってやった。しかし楽屋でいい音していても舞台へ移動する間に、緞帳が上がったちょっとした空気の変化で乾燥したり本当にナイーブでナーバスな恋人だった。「遺影を持って下さいね」突然そんなことを言われたのが文化勲章を受けられた頃だったか、山田さんの息子がこの世界に大勢いる。”もしもの時は”の意味だったのか、お会いしなくなって久しい。きっと空気のいいところで静養されておられよう「徳川の夫人たち」の山田さんはそばで見ていてゾクッとするほど美しかった。もう一度舞台ご一緒したい。大勢の息子達がお帰りをお待ちしていますよ。

by teruhiko_saigo | 2005-08-11 17:47 | 舞台のこと