13日間の旅から羽田空港に着いて、寒い表に立って迎え待ってたんよ。
高速道路が混んでたとかで3分遅れで到着した。「ほんならな」マネージャーに別れを告げて一路自宅へ。「トイレ行っといたら良かったかな」
という気持ちも、高速やからという思いに打ち消され、車はETCを越えて
首都高速に滑り込んだ。
「あれ?」下半身が妙に重い。じわ〜っと下に降りていくものがある。
車は快調に走ってる。勢至郎君が明るく話しかけてくる。受け答えしながらも忍び寄る何かに怯え、言葉少なくうつむきがちになってくる。「京都の連中がですね」と言い出した時、我慢は限界に達していた。「飛ばせ!」「?何ですの」「ええから飛ばせ!もうあかん」察した勢至郎。
「次で降りまっさ」「何でもええ、話しかけるな・・トイレ・・トイレ」「出口、曲がったらすぐでっさかい」右にカーブして急ブレーキした。「わっ混んでるわ」「もうちょっとやのに」「飛び越せへんのか!」震えが止まらない・・汗が噴き出る、腰を浮かして耐える・・目を閉じて恍惚の表情で・・耐える。
すぐそこに出口が見える。前の小型営業車・・・のろい。ハンドル右に切って高速を降りた「行け!行け!」窓開けて左から来る車を牽制する。「左・・左!」橋渡ったところで「このビルで借りましょか?ガードマンに頼んで」「あかんあかん恥ずかしい」最低限の男の美学は忘れとない。
「サンクスがある!」勢至郎が砂漠でオアシスを見つけたような、ひっくりかえったような声を出した。「ここで降りて走る、いや危ない」「着きました!」
たくさんの目がある。うろたえるな!男の美学や。
「神様、神様どうかお守りを」ドア開けて、おおレジの女の子・・
「ととトイレありま・・」「左の奥ですよ」何と、何と大らかな、心の広
い・・まるで天使のような優しい笑顔・・あと15歩も行けば天国がある。
さりげない顔を装いながらも、そこらの商品をなぎ倒しそうな有無を言わさ
ぬ目つきは、きっと誰もが近寄りがたい凄みを帯びているに違いない。
あと五メートル・・三メートル・・トイレって書いてある・・
男女のマークがぼやけて見える・・心なしか膝を落としてドアのノブに手を
かけ右に回す・・「開いた」・・閉める!ロックする!ベルトはずす・・
「財布落としたらどないしょ?」「どうでもええ!」
・・・・間に合った・・神は見捨てなかった・・
こんな幸せな瞬間を初めて体感した・・胸を張って・・何事も無かったかの
ように後ろ手にドア閉めた・・このコンビニは忘れへん・・全商品をそっ
くり買うてやりたい・・レジの天使ありがとう!・・僕は生きてる!
普通であることの喜びをかみしめながら・・コンビニを後にした
・・何も買わんと・・もう一度・・ありがとう・・サンクス!