
詩人、エッセイスト、画家の松永伍一さんは1930年福岡で出生された。
僕が日生劇場でリサイタルを開いた頃だからかれこれ35年来のお付き合いになる。
上梓される度に美しいお手紙付きで著書を贈って下さるので、
我が書斎には専用のコーナーがあるほど松永さんで充実している。
今回戴いた『人は言葉に癒され、言葉に励まされる』PHP研究所は、
最愛の奥様の介護のなかで書き始め、葬儀を終えた直後に脱稿されたとお手紙にあった。
「まずは深呼吸」から始まる”物事がうまくいかない時に”
”人間関係に悩んだ時に””自分に自信をなくした時に”
”家族のことで悩んだ時に””毎日がつまらなっくなった時に”
”人生に迷った時に”の六章から成る。これまでの百数十冊の著書の中から
抜粋された松永さんの人生語録である。
僕の好きな言葉をいくつか。
「悲しみは
踏みつけられるうちに
希望の芽を出す」
「真に絶望した者だけが、
本当の希望を持てる」
「生きているー
ただそれだけで尊いことです」
「悠然と空を見上げていると
肩の荷が軽くなる」
「感動で涙ぐんだ回数だけ
心の年輪ができる」
ふと心がつまった時、僕は再びこの本を開くだろう
誰にでもある生活の中の小さなほころびにつまづいた時に。
「身近なところに幸せは潜んでいる」そうだから。
五木寛之さんの『大河の一滴』が文庫化された時
松永さんの解説に痛く感動した。ご本人の許可を得たので掲載したい。
”「いまどこに居るか」と、おのれに問うてみると、まず「ここ」
と答えるしかない。元気であっても「ここ」、病んでいても「ここ」、
老いていても「ここ」である。そして、いのちあるものはすべて死ぬ。
死にそこねる人は一人もいない。だから、自分から死ななくてよいのだ。
絶望した「ここ」を見つめていて、
そこから希望が生まれてくればありがたいし、
苦しみがつづいていくとしても、それを希望の種子としよう。
宇宙は一つの色で塗りつぶされてはいない。白と黒があり、光と闇があり、
善と悪があり、苦と楽があり、生と死があり、健康と病いがあり、
男と女があり、天と地がある。すべてを相対的に見ていくと、
そのように造られた宇宙の構造を素直に認めたくなる。
それができれば楽になるだけでなく、他人が見え、自分がより鮮明に見え、
「宇宙のなかのたったひとりの存在」が限りなく尊く思えてくる。
五木さんの伝えたいのはそういうことだと私は思う。
まさしく「人は大河の一滴」の肯定である。