アートブレイキーとジャズメッセンジャースの「モーニン」を聴いたのは中学一年の時だ。
生まれて初めて聴いたジャズ。
鹿児島の天文館のダンスホールでドラムを叩いていた大学生の兄貴が、買ってきたばかりのEP盤を誇らしげにポータブルプレーヤーのターンテーブルに乗せて”ばつっ”と針を落とした。軽いピアノのフレーズとリズムのかけ合いに心地よいトランペットが加わって、もう泣きたくなる位しびれた。
努力家の兄貴は一日中スティックでそこいら中を叩いて母を怒らせた。寝ているときも口で”トントンストトントンストトン”足はバスドラとハイハット、隣で寝ている僕はいい迷惑だったが、やがて二人は夢のセッションをしていた。
世の中に怖いものなしの僕だったが、何があっても兄貴には逆らわなかった。兄貴はいつも正しかった。誰にでも優しかった。町のみんなに慕われていた。
生きていればとうに還暦を過ぎている。「モーニン」を聴くと思い出す。